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SS NEWS(令和5年6月)~退職金に関する税金~


■ 退職金の税制優遇措置の縮小(増税) ■

 政府は勤続20年を超えた人を優遇している「退職金の税金」について、優遇措置の見直しを検討しております。
 岸田首相は「新しい資本主義」の実現には労働市場の改革が不可欠だとして、労働力の成長分野への移動を促す改革に取り組むとしております。そして、円滑な労働力移動を阻害している要因の1つとして「退職金の税金が長期勤続者(勤続20年超)に対して優遇されていること」を挙げ、その優遇措置の縮小を検討しております。
 4月に「新しい資本主義実現会議(議長・岸田首相)」を開き「優遇措置縮小の検討」を表明し、6月までに労働市場改革案をまとめるスケジュールで、おそらく、今年の年末の税制改正に盛り込むことを目指していると予想されます。
 そこで、今月は「退職金」にスポットをあて解説します。


■ そもそも退職金にはどんな税金がかかるの? ■

 退職金は、毎月の給料や賞与と同様に「所得税(復興税含む)。住民税」の2種類の税金がかかります。一方、健康保険や厚生年金などの社会保険料は退職金にはかかりません。


■ 退職金の税金の計算方法は? ■

 退職金は「受け取り方」で税金の計算方法が変わります。
 受け取り方は主に2パターンあります。
 ① 一時金として「一括」で受け取る
 ② 年金として「分割」で受け取る
 
 中小企業では「一時金(一括)」方式が一般的なので、本稿では①についてのみ取り上げます。
 ※死亡後に受け取る退職金(いわゆる「死亡退職金」)は、所得税も住民税もかかりません。一方、相続財産とみなされ相続税がかかります(相続税計算において死亡退職金の優遇措置あり)。

 2種類の税金のうち「所得税」の計算式は次の通りです。複雑なので分解してご説明します。

(1) 退職金にかかる所得税=退職「所得」×所得税率(5%から45%の累進課税)
(2) 退職「所得」=(退職金-退職所得控除)÷2(まれに「÷2」が使えないケースがあります)
(3) 退職所得控除 ①勤続20年以下=40万円×勤続年数
           ②勤続20年超 =40万円×20年+70万円×(勤続年数-20年)

 言葉でご説明するとややこしいので実際に計算してみましょう。
 
 勤続年数25年のAさんが1,500万円の退職金を受け取ったとします。(説明の都合上、退職金を高めに設定しております)

上記(3)の「退職所得控除」=40万円×20年+70万円×(25年-20年)=1,150万円
上記(2)の「退職所得」=(1,500万円-1,150万円)÷2=175万円
上記(1)の「所得税」=175万円×5%(195万円以下の税率は5%)=8万7500円(約9万円)
※復興税と住民税の計算は割愛します。

 上記設例のAさんは1,500万円の退職金に対し所得税は約9万円です。
 比較のために「年間給与(年収)」1,500万円の所得税を計算すると、約277万円です。
 退職金の税金がいかに優遇されているかお分かりいただけると思います。
 ちなみに、Aさんの退職金が1,150万円以下なら所得税はゼロです。

 政府が目指す「優遇措置の縮小」は上記(3)のうち「②勤続年数20年超」の部分です。勤続20年までは1年あたり40万円の控除ですが、21年目以降は70万円と30万円増加します。この「30万円の増加」が「優遇」だと言っているわけです。

 仮に、勤続21年目以降の控除も「40万円」だと仮定して再計算してみると、

(3)の退職所得控除=40万円×20年+40万円×(25年-20年)=1,000万円
(2)の退職所得=(1,500万円-1,000万円)÷2=250万円
(1)の所得税=250万円×10%-9万7500円=152,500円(約15万円)
(195万円超330万円以下の税率は10%で、そこから97,500円を控除して計算します)

 よって、15万円-9万円=6万円の増税(所得税のみ。復興税・住民税は割愛)となります。
 ※中小企業の創業社長等の場合は、勤続年数が長く、退職金も高額になる場合が多いので、増税額も大きくなります。


■ ところで、役員の場合はいくらまで退職金を出せるの? ■

 本稿を読んでくださっているのは、経営者の方が多いと存じます。以下は、経営者向けにお話しします。
 中小企業の場合、従業員退職金の算定は、社内規程や過去の実績から計算する場合が多いと思います。
 では、役員退職金は何を基準に計算するのでしょうか?


■ 税務上は上限があります ■

 役員退職金をいくら支給するかは、それぞれの会社が決めることです(決めてよいです)。
 一方で、税金上は「損金にできる上限額」があります。この上限額を超えて支給すると、超えた部分が損金になりません。
 「損金にならないが支給する」ことはほとんどないので、「税務上の上限額=退職金の上限」と言えます。
 そして、「税金上の上限額」は「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で計算されます。

 「最終報酬月額」は、文字通り「退職直前」の最後の報酬月額です。
 よくご質問を受けるのが、「過去の最高」月額や「過去の平均」月額を採用してもよいか?というものです。例えば、会長になったときに報酬を下げたので「過去最高」や「過去平均」は現在の報酬より高い、という場合です。
 
 残念ながら、過去最高や過去平均を使うのはリスクが高いです。過去の裁判例では「最終報酬月額は通常、在任期間中における報酬の最高額を示すもの」「最終報酬月額が在任期間中における功績を最もよく反映している」と判示されております。
 実態はかならずしもそうとは限りませんが、「税金上の常識」が「世間の常識」とズレております。また、退職「直前」の役員報酬増額は、多くの裁判で否認されておりますのでご注意ください。

 「在任期間」は、役員在任期間です(原則として役員就任「前」の期間は含みません)。

 「功績倍率」は、過去の裁判で税務当局が示した「社長3.0倍、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6」を採用するケースが多いです。(この倍率は、法令や通達に明記されておりません。)
 また、この功績倍率には「功労金部分」も含まれております。
 退職金とは別に功労金を支給する場合は、功労金を含めて功績倍率を超過してないかご注意ください。

 役員退職金の計算要素である「最終月額報酬」「在任期間」「功績倍率」の3つうち、「在任期間」「功績倍率」は自ずと決まってしまいますので、「最終月額報酬」が非常に重要です。だからこそ、退職を考える時期になってからでなく、もっと以前から(例えば5年以上前から)、最終月額報酬をいくらとするのかを設計することが肝要です。それと同時に、会社の業績や資金繰りの状態を勘案することは言うまでもありません。

 最後に、ご健康なうちに退職金を受け取るのか(生前退職金)、死亡退職金として受け取るのかも、十人十色で価値観が分かれる部分です。「どうしようかな・・・」と思った時がご相談の好機です。弊社担当者に声をおかけくださいますよう、よろしくお願いいたします。

2023.6.7 サクセスサポートニュース(令和5年6月)