SS NEWS(令和5年3月)~贈与税の改正・生活費や教育費の贈与~
【 令和4年分の所得税申告の期限について 】
令和4年分の所得税・贈与税の申告・納付期限は、「令和5年3月15日(水)」です。新型コロナウィルスが蔓延した令和元年以降、申告期限自体が延長されたり、簡易な方法による延長が認められたりと様々な緩和措置が取られておりましたが、令和4年分の所得税申告期限についてはそのような緩和措置はなく、新型コロナウィルス蔓延前の「通常通り」となっております。所得税申告が必要な方で、まだ申告書の提出がお済でない方は、最優先で提出のための準備をお願いいたします。
【 贈与税改正後の相続税対策 】
令和5年度税制改正により、贈与税について大きな改正が入りました。主な改正点は以下の3つです。
(1)「暦年課税制度」贈与の生前贈与分の加算が、令和6年分以後の贈与から「3年→7年」に変更(増税)
(2)「相続税精算時課税制度」の内容が緩和(減税)
(3)「教育資金の一括贈与の非課税特例」が令和8年3月31日まで延長(減税)
(4)「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例」が令和7年3月31日まで延長(減税)
今回の改正により「暦年贈与」は使いにくくなり、「相続時精算課税制度」は少し使いやすくなりました。とはいえ(1)の改正の影響は大きく、生前贈与による相続税対策は大幅に制限されることになりました。法改正後の令和6年1月1日以降は、2つの制度をどの様に活用するのが最善なのかを、ご家族の状況に応じて検討する必要があります。今回の改正が「厳しい改正」であることは違いありませんが、贈与による節税の方法はまだ残されています。
今回は「扶養義務者間の生活費、教育費の贈与」をご紹介します。
【 扶養義務者間の生活費、教育費の贈与 】
相続税法第21条の3第2項において、「贈与税の非課税財産」について「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち、通常必要と認められるもの」と定められています。
・扶養義務者とは以下の通りです(国税庁 HP より)
① 配偶者
② 直系血族および兄弟姉妹
③ 家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族
④ 三親等内の親族で生計を一にする者
端的に言いますと「配偶者、両親、祖父母、子、孫、同居しているおじ・おば、おい・めい」の関係です。一般的には両親が負担する子の生活費や教育費を、裕福な祖父母が負担することにより、祖父母が死亡した時に、相続税か課税される財産を減らすことができます。
・生活費とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く)をいい、治療費や養育費その他これらに準ずるもの(保険金または損害賠償金により補填される部分の金額を除く)を含みます。具体例としては生活費(家賃、食費、日用品等の購入費)、医療費、結婚式や披露宴の費用、婚姻時の家具等の購入資金、出産に係る検査、検診、分娩、入院費が挙げられています。(国税庁 HP より)
・教育費とは、被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません。具体例としては、修学旅行費、塾の授業料、受験料、留学費用が挙げられています。(国税庁 HP より)
・通常必要と認められものとは、贈与を受けた者(被扶養者)の需要と、贈与をした者(扶養者)の資力その他一切の事情を勘案して「社会通念上適当」と認められる範囲をいいます(国税庁 HPより)
「社会通念上」の定義が税法に定められていないので判断に迷うところではありますが、「世間一般の常識の範囲内の生活費や教育費の贈与」であれば非課税ということになります。
「首都圏に住む夫婦共働きで子供2人」の家族を想定します。国税庁の調査結果によりますと、令和3年分の平均給与は男性 545 万円、女性 302 万円なので、夫婦の年収はこの平均給与程度と仮定しましょう。
子供2人とも中学受験を目指したとします。早いと小学校3年生頃から専門の塾に行くそうです。無事2人とも中高一貫の難関私立中学に進学したとします。この両親の収入だけでは子供2人の教育費を支えるのは容易ではないと思われますので、裕福な祖父母の援助があったとしても「贈与には該当しない」でしょう。また、昨今は私立中学受験も一般的になりつつあり、これについても「通常必要と認められる範囲」と考えます。
さらに、この子供の出来が良く、一人は私立大学医学部合格、もう一人は海外留学を希望したとします。子供が希望することは何とか叶えてあげたいのが親心ではありますが、両親の収入だけでは当然不可能なので、裕福な祖父母が資金援助をしても「贈与には該当しない」といえるでしょう。
一方で、例えばこの両親が二人とも「一部上場企業のビジネスパーソン」「会社経営者」「医師」等世間的に裕福と言われる職業についているとどうでしょう。どの程度裕福なのかに差があるとは思いますが、少なくとも、国税庁の平均給与の共働き夫婦より収入は多いと思われます。
子供の教育費を全部とは言えないまでも、ある程度の金額は両親の収入のみで支えられるにもかかわらず、上記と同程度の祖父母の援助を受けていれば、その援助は「通常必要と認められる範囲」を超えますので、「贈与と認定」される可能性が高いと言えます。
お伝えしたいことは、祖父母からの「生活費や教育費の贈与」は「ご家族の資産状況毎に個別の判断が必要」ということです。また、贈与をする際には「お金の流れや領収書、契約書等の証拠」がとても重要です。不安が残る方は、実際に贈与をする前にぜひ弊社担当者にご相談ください。
【 最後に・・・ 】
生活費や教育費の贈与についてのご紹介をしました。重要なことは「子や孫が必要としているときに、必要な財産を援助する」ということです。相続で財産をもらっても子や孫はその感謝の気持ちを伝えることはできませんが、生前に援助を受ければ感謝の気持ちを伝えることができますし、親や祖父母は子や孫の喜ぶ顔を見ることができます。まとまった資金がご用意できるご家庭は、「延長された一括贈与特例」を活用することもできますが、「その都度贈与」は子や孫が祖父母に何度もお礼を伝えに来ますので、タイムリーに幸せな気持ちになれる相続対策と言えます。
贈与税について厳しい改正が入りましたので、「生活費、教育費の贈与」を活用しつつ、「暦年課税制度」や「相続時精算課税制度」も上手に活用して、制度改正後の相続対策を検討しましょう。
2023.3.10 サクセスサポートニュース(令和5年3月)